卒論やレポート作成に困っている大学生の皆さん必読! 文系のための『レポートの組み立て方』 [おすすめ本]
社会人になってから,この本を読みました.読み終わった最初の感想は,
「卒論にとりかかる前に,この本を読んでいたらなぁ…」
というものでした.
本書の著者,木下 是雄氏には,有名な著作『理科系の作文技術』があります.こちらは,実験レポートや論文を書く上で重要なポイントを述べたものであり,文章を書くのに役立つ共通の部分もありますが,やはり,文系のレポートとは少々異なる点があります.文系のレポートは,自分で実験した結果をまとめるというより,ほかの先生方の著書を読んで,それらの意見を総合してレポートにまとめる,という面が強いように思います.『レポートの組み立て方』は,そのような文系のニーズに合った内容となっています.
さて,これは文系・理系問わずに重要なことだと思いますが,本書に書いてあって私が「なるほど」と感じた点を2点ほど挙げておきます.
・レポートの構成は,「起承転結」よりも「序論・本論・結論」あるいは「概要・序論・本論(結論を含む)・考察」のほうがふさわしい.
・他人に読んでもらう文書はすべて,読み手の立場に立って「誰がこれを読むのか」,「その読み手にどれだけの予備知識があるのか」,「読み手は何を期待してこれを読むのか」,「読み手がまっさきに知りたいのは何か」を考えて書く内容や順序,表現の仕方を検討するべきである.
前者は,中学生のころ,読書感想文を書く際に私が悩んだ点です.読んだ本の感想を述べるのに,なぜ「転」が必要なのか? 転を入れて結論に至るためには,最初は自分の結論に気づいていない,という前提で始めないといけないのではないか? などと,大いに悩みました.そのときは,起承転結が唯一の構成法だと思っていたのでした.
後者は,大人になった今でも留意しておかねばならない重要な事柄です.わかっているつもりでも,意外に自分の語りたい部分に熱が入ってしまい,読み手のことは後回しにしてしまうことがあるような気がします.また,学生の書くレポートの場合は,読み手を大学の先生と考えず,自分と同格あるいは少し上の読み手を想定するとよい,という指摘にも同感です.
卒論は今さら書き直せませんが,実生活でもいろいろと役立ちそうな本書,ぜひ一度,呼んでみてください.
・
「卒論にとりかかる前に,この本を読んでいたらなぁ…」
というものでした.
本書の著者,木下 是雄氏には,有名な著作『理科系の作文技術』があります.こちらは,実験レポートや論文を書く上で重要なポイントを述べたものであり,文章を書くのに役立つ共通の部分もありますが,やはり,文系のレポートとは少々異なる点があります.文系のレポートは,自分で実験した結果をまとめるというより,ほかの先生方の著書を読んで,それらの意見を総合してレポートにまとめる,という面が強いように思います.『レポートの組み立て方』は,そのような文系のニーズに合った内容となっています.
さて,これは文系・理系問わずに重要なことだと思いますが,本書に書いてあって私が「なるほど」と感じた点を2点ほど挙げておきます.
・レポートの構成は,「起承転結」よりも「序論・本論・結論」あるいは「概要・序論・本論(結論を含む)・考察」のほうがふさわしい.
・他人に読んでもらう文書はすべて,読み手の立場に立って「誰がこれを読むのか」,「その読み手にどれだけの予備知識があるのか」,「読み手は何を期待してこれを読むのか」,「読み手がまっさきに知りたいのは何か」を考えて書く内容や順序,表現の仕方を検討するべきである.
前者は,中学生のころ,読書感想文を書く際に私が悩んだ点です.読んだ本の感想を述べるのに,なぜ「転」が必要なのか? 転を入れて結論に至るためには,最初は自分の結論に気づいていない,という前提で始めないといけないのではないか? などと,大いに悩みました.そのときは,起承転結が唯一の構成法だと思っていたのでした.
後者は,大人になった今でも留意しておかねばならない重要な事柄です.わかっているつもりでも,意外に自分の語りたい部分に熱が入ってしまい,読み手のことは後回しにしてしまうことがあるような気がします.また,学生の書くレポートの場合は,読み手を大学の先生と考えず,自分と同格あるいは少し上の読み手を想定するとよい,という指摘にも同感です.
卒論は今さら書き直せませんが,実生活でもいろいろと役立ちそうな本書,ぜひ一度,呼んでみてください.
・
半信半疑,でも楽しんで読める坂本龍馬暗殺の謎解き『あやつられた龍馬』 [おすすめ本]
会社の同僚が,私に言いました.「信じないかもしれないけれど,日本の政治家だってアメリカの政治家だって,みんなロスチャイルド家(ユダヤ金融マフィア)に動かされてるんだよ.東日本大震災だって,彼らが人為的に起こしたらしいよ」.なーに言ってんの,と大笑いした私でしたが,地震はともかくとして,日本やアメリカの政治家が,財閥や金融筋に操作されているというのは,ありうる話だよなぁ,とは思いました.そして,ちょっと興味がわいたので,ロスチャイルド関連書籍などをいくつか覗いてみたのですが,その中で見つけたのが,この本『あやつられた龍馬 ~明治維新と英国諜報部,そしてフリーメーソン~』です.ちょっと怪しげなタイトルですが,おもしろそうだと思って読んでみました.けっこう面白かったです.
この本は,坂本龍馬がだれに殺されたのか? 剣の達人が,なぜやすやすと暗殺されたのか? 事件の詳細が伝えられていないのはなぜか? などの謎を最初に提起し,坂本龍馬や幕末の志士たちが情報や見識をどこから得て,どのように活躍したのかを推理します.そして,なぜ殺されたのか,だれに殺されたのか,どのように殺されたのかまで大胆に推理してみせます.
まゆつばなところももちろんありますが,「なるほど,そう考えると筋が通る」というところもあります.これこそが事実だ! と言い張るつもりはありませんが,歴史解釈のヒントとして読んでみるには面白いです.「常識を疑え」という発想が好きな人には,特におすすめです.
あやつられた龍馬―明治維新と英国諜報部、そしてフリーメーソン
- 作者: 加治 将一
- 出版社/メーカー: 祥伝社
- 発売日: 2006/02
- メディア: 単行本
この本は,坂本龍馬がだれに殺されたのか? 剣の達人が,なぜやすやすと暗殺されたのか? 事件の詳細が伝えられていないのはなぜか? などの謎を最初に提起し,坂本龍馬や幕末の志士たちが情報や見識をどこから得て,どのように活躍したのかを推理します.そして,なぜ殺されたのか,だれに殺されたのか,どのように殺されたのかまで大胆に推理してみせます.
まゆつばなところももちろんありますが,「なるほど,そう考えると筋が通る」というところもあります.これこそが事実だ! と言い張るつもりはありませんが,歴史解釈のヒントとして読んでみるには面白いです.「常識を疑え」という発想が好きな人には,特におすすめです.
書籍化しないかな… 朝日新聞連載小説『麗しき花実』 [おすすめ本]
4月から再購読しはじめた朝日新聞.連載の途中からでしたが,小説『麗しき花実』を夢中になって読んでいました(もう終わってしまいましたが…).
主人公は,自立しようとしている女蒔絵師,理野(りの).どうやら過去の恋愛にトラウマを持っているらしく,その影をふりきるように仕事に打ち込んでいるのですが,思うようにいったりいかなかったり….そんな中,同業や関連業の男性に惹かれたり惹かれなかったり….この「仕事」と「恋」の話が上品に,ときには深く織り込まれていて,すごく引き込まれました.
恋だけでもなく,仕事だけでもなく.これは,手に職をつけて自立したいと考えている現代の女性にも通じる話だと思いました.作者が男性なのが意外なほど女性心理に長けていて,感心しながら毎回楽しみにしていました.
最後まで読み終えて一段落はしましたが,できれば最初から読んでみたいものだと思います.書籍化しませんか?朝日新聞社さん.
p.s.
Webで検索してみると,同じように楽しみに読んでいらしたかたが見つかって,なんだか嬉しいです♪
http://d.hatena.ne.jp/monyakata/20090820/1250727498
http://plaza.rakuten.co.jp/amande0827/diary/200903250000/
http://ruri.air-nifty.com/coboledane/2009/09/090915-ca01.html
主人公は,自立しようとしている女蒔絵師,理野(りの).どうやら過去の恋愛にトラウマを持っているらしく,その影をふりきるように仕事に打ち込んでいるのですが,思うようにいったりいかなかったり….そんな中,同業や関連業の男性に惹かれたり惹かれなかったり….この「仕事」と「恋」の話が上品に,ときには深く織り込まれていて,すごく引き込まれました.
恋だけでもなく,仕事だけでもなく.これは,手に職をつけて自立したいと考えている現代の女性にも通じる話だと思いました.作者が男性なのが意外なほど女性心理に長けていて,感心しながら毎回楽しみにしていました.
最後まで読み終えて一段落はしましたが,できれば最初から読んでみたいものだと思います.書籍化しませんか?朝日新聞社さん.
p.s.
Webで検索してみると,同じように楽しみに読んでいらしたかたが見つかって,なんだか嬉しいです♪
http://d.hatena.ne.jp/monyakata/20090820/1250727498
http://plaza.rakuten.co.jp/amande0827/diary/200903250000/
http://ruri.air-nifty.com/coboledane/2009/09/090915-ca01.html
母から娘へ,脈々と継がれる大河童話『魔女の宅急便』,ついに完結! [おすすめ本]
魔女の宅急便 〈その6〉それぞれの旅立ち (福音館創作童話シリーズ)
- 作者: 角野 栄子
- 出版社/メーカー: 福音館書店
- 発売日: 2009/10/07
- メディア: 単行本
ジブリアニメの100倍お勧め! 原作『魔女の宅急便』
魔女の宅急便 (福音館創作童話シリーズ)作者: 角野 栄子出版社/メーカー: 福音館書店発売日: 1985/01メディア: 単行本
タイトルを聞いただけでユーミンのBGMが聞こえてきそうな,宮崎アニメ『魔女の宅急便』.あれもまあ悪くなかったと思うのですが,原作である角野 栄子さんの童話『魔女の宅急便』は,子どもが親しめる童話として,また少女の成長物語として,とてもおもしろいです.
ほんのちょっとしたきっかけで読み始めた『魔女の宅急便』の6巻目(最終巻)が来週発売されます.1冊目の単行本発売から24年.少女だったキキがお母さんになり,今度は娘の旅立ちに直面することに….読む前から期待でワクワクです.
http://www.fukuinkan.co.jp/ninkimono/majo/index.html
このシリーズでは,娘キキと母コキリさんの心の交流が重要な要素になっていました.そのキキが今度は母に! という設定が,なんだか私自身の立場と重なって見えて,なんだかしみじみとしてしまいます.
読む前から「おすすめ」なんて本当は邪道ですが,ともあれ,おすすめです♪
みごとな伏線に感心,『扉のむこうの物語』 [おすすめ本]
作者の岡田 淳さんは,「挿絵も描ける小説家」とでも読んであげたい方です.もともと,こそあどの森シリーズ(『不思議な木の実の料理法』など)で岡田さんの作品を知り,シリーズを夢中になって読んだあと,「この人のほかの作品はどんなものなんだろう?」と思い,この本を手にとってみました.
主人公は小学校6年生の行也(ゆきや)くん.おそらく,読者対象は小学校高学年なのでしょう.レッテルを貼る(死語?)とか,正義・真実・平和の名のもとにとか,分かりやすい比ゆが出てくるのも,きっとそのためでしょう.ちょっと「分かりやすすぎる」気もしますが,ひらがな50音表や過去の思い出とのリンクなど,後から「なるほど! そうきたか!」と思うところが多く,楽しく読み進められます.
また,物語の終わりかたが絶妙だなと思います.語りすぎず,少なすぎず.
この人の作品,もっと読んでみたいです.
アニメに続いて読みたい『火垂るの墓』 [おすすめ本]
『魔女の宅急便』で「宮崎アニメのストーリは,原作からかなり離れているのでは?」という疑念を抱いた私は,『火垂るの墓』も原作を読んでみることにしました.
名作のほまれ高いアニメ『火垂るの墓』ですが,私は見ていてなんだか納得できなかったです.清太はあの苦しい戦時中にも関わらず,お金も食料も(少なくとも最初は)ふんだんに持っていたのに,小さなプライドと意地からわざわざ苦境に落ちていったのでは….と感じていました.もちろん,平時のごくふつうの少年に「プライドや意地は捨てろ.生きるためには人に折れろ」と指導するのは簡単ではないでしょうが,あのアニメの展開では,なにかやりようはあったんじゃないの…? 少なくとも,もっと早く銀行からお金を下ろして食料を調達していれば….なんて思ってしまいます.清太だって,自分のためには頭を下げたくなくても,大切な妹(節子)のためならもっといろいろできたのではないでしょうか.畑から野菜を盗むこと以外で.
(それに,14歳の健康な少年なら,親戚のうちの手伝いをするなど,なにかできることはあったでしょうに.口うるさいおばさんならずとも言いたくなる気持ちは分かります)
そこで.原作を読んでみると.
見事なまでにアニメと一緒でした….いやあ,鮮やかなアニメ化だなあ,と.
ただし,原作のほうが,清太の感情は細やかに描かれていると思いました.ものすごい空襲に遭った後では防火作業に関わる気になれないだとか,節子に対する感情のあれこれとか.
平時なら許される普通の少年のちょっとしたわがままが,戦時には大きな悲劇につながっていく….そんな悲しさや虚しさを感じました.
このアニメ,若い世代が戦争に関心を持つためには,なかなか有効なのではないかと.
なお,一緒に収録されているほかの短編も読んでみることをお勧めします.作者の世界観がよく伝わってきます.
ジブリアニメの100倍お勧め! 原作『魔女の宅急便』 [おすすめ本]
タイトルを聞いただけでユーミンのBGMが聞こえてきそうな,宮崎アニメ『魔女の宅急便』.あれもまあ悪くなかったと思うのですが,原作である角野 栄子さんの童話『魔女の宅急便』は,子どもが親しめる童話として,また少女の成長物語として,とてもおもしろいです.
原作を読んでまず思ったのは,「アニメとストーリが違う!」ということ.一人前をめざす魔女キキが黒猫ジジと旅立つ,という設定は同じなのですが,その後の展開や物語のまとめかたがまったく違います.
アニメのほうは,キキが心の迷いがもとで飛べなくなり,飛行船墜落事故で友だちを救うために大活躍! めでたしめでたし,というまとめかたになっています.でも,原作のキキは,そういう「いかにも」の大活劇はしません.また,「飛べない」なんていう大人ちっくな挫折なんてしません.もっと小さな,いろんな失敗と活躍を繰り返しながら,少しずつ成長していくのです.そしてまる一年経ち,里帰りしてよい時期になると,キキは母さんと父さんのところに里帰りします.そこで読者はキキの成長を改めて感じるわけです.それがまた,等身大ですてきなんです.
ボーイフレンド(友だち)のトンボさんとの関係も,原作のほうがすてきだなあと思いました.
それから,原作の登場人物たちのほうが,アニメのよりも感情が細やかです.キキの旅立ちの不安や,母さんの心配性と親心,近所のひとたちの思いやりなどが鮮やかに描かれています.アニメは分かりやすくするためにか,そのあたりをすっきりさっぱりと整理してしまっているように思います.特にキキは,いかにも「宮崎アニメのヒロイン」ふう.明るくさわやか,ドタバタでめげない.「こういうヒロインが受けるんだよ」とちょっと定型化されすぎているように思うのは,私だけでしょうか.
またなんと言っても原作ですばらしいのは,角野さんの子ども(人間)に対する温かい視線です.キキは不安と期待を体いっぱいに詰め込んだおてんば少女なので,いろいろ失敗なんかもするわけですが,角野さんがそれを描きながらいっぱいの優しさで包んでくれていることが感じられるので,安心して読み進められます.優しさはキキだけでなく,魔女のほうきを盗んでしまう少年や,街の子どもたち,大人たちにも向けられています.大きな街のひとって冷たいんだ… という描写がある一方で,人間ひとりひとりに着目してみたら,なんだみんな赤い血が流れているんじゃないの,よかったよかった,という角野さんの大きな笑い声が聞こえてきそうです.
アニメでは,赤いラジオから聞こえてくる音楽はユーミンでした.おそらくアニメの視聴者層を意識して選曲したのだと思いますが,私はむしろ,ポップな感じの洋楽(歌詞は聞き取れない)のほうが合うのではないかと思います.例えば,ビートルズのHelp! とか,カーペンターズのTop of the Worldとか.ユーミンや渡辺美里では,ちょっと時代の空気を背負いすぎているような気がします.ユーミンの同じ曲(「ルージュの伝言」)を使うとしても,例えば英語に翻訳して歌ってもらえれば,ずっと雰囲気が合うと思います.
アニメ『魔女の宅急便』が好きな方,なんだかいまいちだなと思っていた方,どちらにも,原作はおすすめですよ.
意外とお勉強になる『ずらーりウンチ』 [おすすめ本]
穂村 弘のファンタジー・エッセイ『現実入門 ~ほんとにみんなこんなことを?~』 [おすすめ本]
穂村さんが「もてないオジサン」ではなく,「自称もてないオジサンであるところの意外と知的でユーモアと魅力にあふれる人」である,ということが分かってから,彼のエッセイを楽しめるようになりました.
なんというか,いかにもみじめな人がみじめに語ってみせても,ぜんぜん笑えないじゃないですか.
穂村さんはミジメったらしく語りつつ実は魅力的なひと,という前提があって,初めて楽しめるように思います.って私だけかな?
で,結婚やその他,生活や現実に浸かったことができないホムラさんが,魅力的な女性編集者といっしょにさまざまなイベントを体験するという(おまけに,彼が結婚に至る経緯を知ることができる,という噂の)本エッセイを,読んでみようと思ったのです.
絵に描いたような「デキル美人編集者」のサクマさん.に振り回される(あやつられる?),ダメおじさんことホムラさん.こんなことしていると2人は恋に落ちてしまうんでは….と随所で妄想をふくらましながら,各回を次々とこなしていきます.
別に,あっと驚くような解説があるでなし,オチが奇抜なわけでなし,なのですが,淡々とした展開がおもしろい.特に,最後に向けたドキドキと「あ!そういうことか!」という爽快感がおもしろい.
読み終わって思ったのは,これは穂村さんによるファンタジー小説ならぬファンタジー・エッセイなのだな,ということ.それが事実なのか,フィクションなのかが問題なのではありません.
彼なりの「実はさ~,かくかくしかじかで…」という照れの混じった解説がこのエッセイなのだな,ということ.
サクマさんという人は,光文社にはいないそうです.
なんとも素敵な話ではないですか.
見なければよかった(?)もう一つの人生を体験できる,山本 文緒『ブルーもしくはブルー』 [おすすめ本]
「蒼子(そうこ)」さん,という主人公は,人生を誤った,と思っている.
その人生の分岐点で,もう一方の選択肢を選んだ「もう一人の自分」に出会うところから,この物語は始まる――.
あれこそが人生最大の間違いだった! ということがもし自分にあれば,きっとそこに戻ってやり直したい,と思うでしょうね.もしあのとき,あぁしていれば… と.
でも,その選択の結末は,結局同じようなところに落ち着く.だって,選択した後に感じることや行動することは,同じ人間であれば,たいてい同じようなものだから.結局,自分,という人間が,そういう人生を選んでいるだけであって,過去のある分岐点がその後の人生を決定的に定めている,ということではないような気がします.
暴力と血がぞっとするほど嫌いな私にとって,けっこう怖い場面もいろいろありましたが,読後感は非常にさわやかでした.へんにハッピーエンドにせず,へんにブラックにもしない.そういうバランスが,自分にとってとても心地良いと感じました.
やっぱり山本 文緒,おもしろいです.
タグ:山本 文緒