これぞ和製ファンタジーの決定版!『狐笛のかなた』 [おすすめ本]
山野でひっそりと暮らす娘と,使い魔として主に操られる霊狐,そして,かくまわれた童.兄弟が治める国は憎しみ合い,いがみ合っている….用いられている道具立てはすべて純日本風のものなのですが,ふと気が付くと,ハリーポッターやゲド戦記の世界を和風に読み替えたもののような気もしてきます.「ファンタジー」とはどのような領域を指すのかは微妙ですが(例えば,『南総里見八犬伝』や『魔界転生』はファンタジーなのか?),本書は,哀しく美しく愛おしい,和製ファンタジーの傑作だと思います.
作風は『空色勾玉』に似ています.けれど,もっと哀しく,心にしみ通ってくるように感じました.まあ,空色勾玉を読んだときは,「これよりも,氷川冴子の『銀の海 金の大地』のほうがぜったいに良い!」などと自分勝手な意地を張りながら読んでいたのですけれど.
戦いの世において,「不殺(殺サズ)」とか,すべての生き物を慈しむ,とかはなかなかできることではないと思います.本書に出てくる小夜さんや花乃さんは,ちょっと“できすぎ”という気もしますが,野火の一途さにうたれて,そういうことは気にならなくなります.また,鈴姉さんは,まるで,『千と千尋の神隠し』で千尋をあれこれ助けてくれた姐さんのような気がして,ますますこの世界に入り込みやすかったです.
洋物の世界もすてきだけれど,こういう和物の世界もいいなあ... と,改めて感じました.
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