30代になって初めて分かる春樹の哀しさ『ダンス・ダンス・ダンス』 [おすすめ本]
大学生のとき,課題図書を読んで感想を述べ合う少人数授業に参加していました.石川 達三の『青春の蹉跌』やら,村上春樹の『ノルウェイの森』やらを読んだのですが,普段読まないタイプの本が新鮮な一方で,「これのどこがおもしろいんだろう?」とふに落ちない本もいくつかありました.
『ノルウェイの森』は,思いっきりハマる人と,私のように「…」な人にはっきり分かれていたように思います.ついでで『羊をめぐる冒険』や『1973年のピンボール』なども読んでみたのですが,やっぱりどの作品も,よく分からなかったです.さらに言うともっと後で,『ねじまき鳥クロニクル』や『スプートニクの恋人』も読んだのですが,やっぱりよく分からなかったです.「ああ,私には村上春樹は理解できない」と思いました.
で,なにを思ったか,つい先日,『ダンス・ダンス・ダンス』を読み始めました.夢中になって,というほどでもないのですがすいすいと読み進め,上下巻を無事に読み終えました.で,「村上春樹という人は,こういう人だったのか」と,初めて作者の気分を理解できたような気がしました.
まず,この作品を読むときには,「1970年代ってこんな雰囲気で,1980年代ってこんな雰囲気だった」ということを分かっていないと,理解しにくいと思います.学生運動が盛り上がって政治に積極的に関わっていた時期(安保闘争とか)から,一転してノンポリの時代,そしてバブルだけがふくらんでみんな豊かさを享受しだす時代….そんな中で,虚しい気持ちを抱いてさまよっている若者(しかも「若者」というには年を取りすぎた,と自覚している世代).だからこそ「とにかくステップを踏むこと.踊り続けるしかない」という言葉が出てくるのだと思いました.
客観的に見ると,なんだかいつも美味しそうな料理を作っているし,食材は高級だし(なんたって青山ですから),経費でハワイには行けるし,なにが不満なの?! と言いたくなる気もするのですが(笑),どんなに客観的に見て恵まれていても,本人が幸せだと思っていなければ幸福ではないのだ,本人が納得できなければ永遠に迷路の中なのだ,という,主観的な物語です.
そうして,その主観の中で,主人公が救われていく過程に,とってもほっとしました.
もう一度『羊をめぐる冒険』を読み直してみようと思います.
20代のときとは違う読み方ができそうだから.
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